
警備業界M&Aコラム
COLUMN
警備会社の事業承継ガイド|親族承継・従業員承継・M&Aの選択肢を比較する
警備会社の事業承継を取り巻く環境
結論:警備業界では、経営者の高齢化・人手不足の深刻化・採用競争の激化を背景に、事業承継の検討が急務となっている会社が増えている。
警察庁「令和6年における警備業の概況」によると、警備業者数は2024年末時点で10,811社に達していますが、その約90%が警備員100人未満の小規模事業者です。中小企業全般の傾向として経営者の高齢化が進んでおり、警備業界も例外ではありません。
加えて、警備業界には以下のような構造的な課題が重なっています。
- 隊員の高齢化:警備員の約47%が60歳以上。今後5〜10年で大量退職が見込まれる
- 採用難の慢性化:保安職種の有効求人倍率は6〜7倍台で推移し、改善の見込みが立ちにくい
- 人件費の上昇:最低賃金の引き上げが続く中、元請けへの価格転嫁が追いつかない
こうした環境下で、「自分がいなくなった後、この会社はどうなるのか」という問いに向き合うことは、会社を守るための経営判断そのものです。
3つの選択肢を比較する
結論:親族承継・従業員承継・M&Aにはそれぞれメリットと課題がある。警備業界の特性を踏まえて比較することが重要。
選択肢1:親族承継
親族(子息・子女・配偶者など)に経営権を引き継ぐ方法です。多くの中小企業で検討される、最も伝統的な承継の形です。
メリット
- 経営者の価値観や理念を引き継ぎやすい
- 社内外の関係者に対して「社長の後継」として受け入れられやすい
- 承継の準備を長期的に進めやすい
警備業界における課題
- 子息・子女が警備業への関心を持たないケースが少なくない
- 後継者が現場運営(指令室・シフト管理・隊員対応)を理解するには相応の時間がかかる
- 株式の取得に必要な資金の確保が難しい場合がある
- 連帯保証の引継ぎが親族にとって大きな心理的負担になる
お話を伺っていると、「子どもには別の道を歩んでほしい」とお考えの経営者が多い印象です。とくに警備業は現場の労働環境が厳しい面もあり、無理に後を継がせることが本人のためになるかどうか、悩まれる方もいらっしゃいます。
選択肢2:従業員承継(MBO)
社内の幹部や従業員に経営権を引き継ぐ方法です。MBO(Management Buyout)とも呼ばれます。
メリット
- 現場の事情をよく知る人物が経営を引き継ぐため、隊員や取引先への影響が小さい
- 社長との信頼関係がすでに構築されている場合、スムーズに移行しやすい
- 経営の方針や文化が維持されやすい
警備業界における課題
- 株式を買い取るための資金を従業員が個人で用意するのは難しいことが多い
- 連帯保証の引継ぎは最大のハードルのひとつ。金融機関からの借入がある場合、後継者が新たに個人保証を負う必要がある
- 営業・管理・現場運営を一人で担える人材が社内にいるとは限らない
- 適任者がいたとしても、本人が経営者になることを望まないケースがある
私が現場で感じているのは、「従業員に継がせたいが、連帯保証のハードルが越えられない」というケースの多さです。警備会社の場合、事業の運営にかかる固定費(人件費)が大きいため、承継後の経営リスクを個人で引き受けることに抵抗を感じる従業員が多いのは無理もありません。
選択肢3:M&A(第三者への譲渡)
株式譲渡や事業譲渡によって、社外の第三者(同業他社・大手グループ・異業種企業など)に経営権を移転する方法です。
メリット
- 後継者が不在でも事業を継続できる
- 大手グループの経営資源(採用力・ブランド・資本力)を活用し、事業の成長が期待できる
- オーナーの連帯保証が全額解除される
- 株式の譲渡対価として創業者利潤を確保でき、税率も株式譲渡益課税(20.315%)で済む
- 隊員の雇用継続が買い手にとっても前提条件であるため、雇用が守られやすい
警備業界における課題
- 経営者が「会社を手放す」ことへの心理的な抵抗を感じやすい
- 買い手との相性や経営方針の違いが、隊員や取引先に影響を与える可能性がある
- 許認可や契約の引継ぎにおいて、警備業特有の実務的対応が必要になる
M&Aに対しては「会社を売る」というネガティブな印象を持たれることもありますが、実際には「会社を次のステージに託す」という前向きな選択であるケースがほとんどです。
弊社が支援した事例でも、60代の創業社長が「従業員を守ること」と「自分自身の新しい人生」を両立させるためにM&Aを選択され、上場企業グループへの譲渡が成立したケースがあります。成約後もトラブルなくスムーズに引継ぎが進み、隊員の雇用も維持されています。
選択肢の比較表

警備業界でM&Aが増えている理由
結論:後継者不在・人手不足・連帯保証という3つの課題を同時に解決しうる手段として、M&Aが現実的な選択肢になっている。
中小企業全般でM&Aは増加傾向にありますが、警備業界では以下の業界特有の背景もあり、第三者への譲渡を選択する経営者が増えています。
1. 単独での人材確保に限界がある
採用力の格差が広がる中で、大手グループの傘下に入ることで採用チャネルや待遇面で改善が見込めるため、隊員の確保という観点からもM&Aが合理的な選択肢となっています。
2. 連帯保証の解除が大きなインセンティブになる
中小警備会社の経営者は個人保証を負っているケースが大半です。M&Aによって株式を譲渡すれば、連帯保証は全額解除されます。「これでゆっくり寝られる」という言葉を、成約後の経営者の方から実際にいただいたこともあります。
3. 許認可が維持できるスキームがある
株式譲渡であれば法人格が存続するため、警備業認定をそのまま維持できます。事業を止めることなく経営権を移転できるという点は、許認可事業である警備業にとって重要な利点です。
自社に合った選択肢を見極めるための視点
結論:事業承継の方法は「正解」がひとつではない。自社の状況に合った選択肢を、時間の余裕があるうちに比較検討することが重要。
以下のような視点で整理してみると、自社に合った方向性が見えてくることがあります。
- 後継者候補の有無:親族・社内に適任者がいるか、育成にあとどれだけの時間があるか
- 経営者自身の年齢と意向:いつまで経営を続けたいか、引退後の生活設計をどう考えるか
- 隊員の将来:今の体制で5年後・10年後も隊員の雇用と待遇を維持できるか
- 財務状況:借入金の状況、連帯保証の負担、承継にかかるコスト
- 契約基盤の安定性:主要取引先との契約は今後も維持できるか、元請けとの関係はどうか
- 業界環境:競合他社の動向、地域の採用市場、大手の進出状況
いずれの選択肢を選ぶにせよ、問題が顕在化してから動くと選択肢が狭まるというのが実務上の実感です。業績が安定しているうちに情報を集め、比較検討を始めることが、後悔のない判断につながります。
まとめ
- 警備会社の事業承継には親族承継・従業員承継・M&Aの3つの選択肢がある。どれが正解ということではなく、会社の状況に応じて比較検討することが大切
- 警備業界では、後継者不在・人手不足・連帯保証という課題が重なっている会社が多く、M&Aが現実的な選択肢として増えている
- 問題が深刻になる前に情報を集めることが、経営者自身と従業員、取引先を守ることにつながる
よくある質問
- Q. 親族承継とM&Aを並行して検討することはできますか?
- 可能です。親族に引き継ぐ準備を進めながら、M&Aという選択肢も視野に入れて情報を集めておくことは、リスク管理としても有効です。最終的にどちらを選ぶかは、状況が整った段階で判断すれば問題ありません。
- Q. 従業員承継を検討しましたが、資金面で難しそうです。ほかに方法はありますか?
- 従業員が株式を買い取る資金を確保するために、金融機関からの融資やファンドの活用が選択肢になる場合もあります。ただし、連帯保証の引継ぎという問題は残るため、MBOが現実的かどうかは慎重に判断する必要があります。M&Aとの比較を含めて、アドバイザーに相談されることをお勧めします。
- Q. 事業承継の検討は何歳くらいから始めるべきですか?
- 一般的には、経営者が60歳前後で検討を始め、65〜70歳で実行するケースが多いとされています。ただし、警備業界では隊員の高齢化や採用難が急速に進んでいるため、業績が安定しているうちに早めに着手することで、選択肢が広がります。
- Q. M&Aを選んだ場合、社名は変わりますか?
- ケースにもよりますが、株式譲渡の場合は法人格が維持されるため、社名をそのまま残すことは可能です。社名の維持は隊員の帰属意識や取引先との関係にも影響するため、交渉の際に要望として伝えることができます。
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警備業界のM&Aや事業承継は、会社の規模や地域、承継スキームなどによって最適な進め方が異なります。検討を始めたばかりの段階でも問題ありません。
『自社の場合はどう考えるべきか』『今すぐ動くべきか、それとも準備期間を設けるべきか』など、状況整理から丁寧にサポートいたします。
警備業界に特化したアドバイザーが、経営者の意思決定を中立的な立場でお手伝いします。
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