
警備業界M&Aコラム
COLUMN
警備業界の人手不足の実態 ― 実感と統計のギャップから読み解く構造変化
中小警備会社の経営者が直面している課題
結論:多くの中小警備会社が「人が集まらない → 売上が伸びない」という悪循環に陥りつつある。
私がお話を伺う警備会社の経営者からは、共通して以下のような声が寄せられます。
- 「募集をかけても人が来ない」:求人広告を出しても応募がなく、採用コストだけがかさむ
- 「採用してもすぐに辞めてしまう」:体力面の負担や人間関係を理由に短期離職が続く
- 「隊員数が増えないから売上を伸ばせない」:受注したい案件があっても、人員が足りず対応できない
帝国データバンクの調査(2026年1月時点)によれば、メンテナンス・警備・検査業種の正社員人手不足割合は67.4%に達し、全業種の中でも第3位の水準です。非正社員でも54.6%と業種別第3位にランクされています。(出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」)
これらは一企業の問題ではなく、業界全体で共有されている構造的な課題です。しかし、統計データを紐解くと、意外な事実が見えてきます。
統計データが示す意外な現実
結論:警備員数と業界売上高はいずれも増加しており、数字の上では業界は「成長」している。
警備員数は過去10年で約5万人増加している
警察庁「警備業の概況」によると、警備員数は2015年(平成27年)末の538,347人から2024年(令和6年)末の587,848人へ、49,501人(9.2%)増加しています。

(出典:警察庁「警備業の概況」各年版より弊社作成)
業界売上高も増加傾向にある
同じく警察庁の調査では、警備業の売上高は2015年の約3兆3,547億円から2024年の約3兆4,478億円へ、約931億円(2.8%)の増加が確認されています。
※ 2023年(令和5年)以降はWEB調査への変更に伴い回答業者数が大幅に減少しており、単純な比較には注意が必要です。ただし、3.3兆〜3.5兆円規模で安定推移している傾向は確認できます。
つまり、マクロの統計データでは警備員の数も売上も増えているのです。それにもかかわらず、現場では「人が足りない」という実感が強まっている。このギャップはなぜ生まれるのでしょうか。
なぜ「実感と統計」のギャップが生まれるのか
結論:警備業者数の増加、警備員の高齢化、大手警備会社の拡大という3つの構造変化が、中小警備会社の採用環境を圧迫している。
理由① 警備業者数の増加 ― 限られた求職者の奪い合い
過去10年で警備業者数は9,342社から10,811社へ、1,469社(15.7%)増加しました。この増加率は、警備員数の増加率(9.2%)を大きく上回っています。

(出典:警察庁「警備業の概況」より弊社作成)
注目すべきは、増加した1,469社のうち1,408社(95.8%)が従業員30人未満の小規模事業者であるという点です。20人未満の事業者だけで1,184社も増加しています。一方、30人以上の規模では、ほぼ横ばいか微増にとどまっています。
この構造が何を意味するか。1社あたりの平均警備員数を計算すると、2015年の約57.6人から2024年の約54.4人へ、実質的に減少しています。業界全体の人数は増えていても、各社の人員リソースは実質的に減少しています。
さらに、総務省の統計によれば、生産年齢人口は2015年から2024年にかけて約400万人以上減少しています。「求職者のパイが縮む中で、競争相手が増えている」。これが「募集をかけても人が来ない」という実感の構造的な背景です。
経営者の方と話していて感じるのは、多くの方がこの「業者数の増加」という構造要因を意識されていないということです。人が採れない原因を自社の待遇や募集方法に求める方が多いのですが、実際には業界全体の構造が変わっているのです。
理由② 警備員の高齢化 ― 人数が増えても「稼働力」は減少している
警備員数が増えていても、その年齢構成は大きく変化しています。

(出典:警察庁「警備業の概況」より弊社作成)
2024年末時点で、70歳以上の警備員は122,919人。2015年の45,438人から77,481人増え、構成比は8.4%から20.9%へと約2.5倍に拡大しました。いまや70歳以上は60代に次いで、全年齢層で2番目に多い区分です。60歳以上の合計は全体の46.9%を占め、警備員のほぼ半数が60歳以上という現状にあります。
一方、30歳未満は10.4%にとどまり、30〜49歳の「現場の中核を担う世代」は2015年から合計で約2万人減少しています。過去10年で増えた約5万人の大部分は、高齢層の増加によるものです。
この高齢化が、「人数は増えているのに現場が回らない」という実感の正体です。具体的には、以下のような影響が経営を直撃しています。
- 稼働率の低下:体力面の制約から、夜勤や長時間勤務に対応できる人員が実質的に減少する。週5日フルタイムで稼働できる隊員と、週3日・日勤のみの隊員では、同じ「1人」でも提供できる労働時間が大きく異なる
- 配置の制約:現場によっては年齢制限や体力要件があり、高齢の隊員を配置できないポジションが増えている。元請けから「若い人を出してほしい」と言われても、対応できないケースがある
- 今後の大量退職リスク:70歳以上が約12.3万人に達しており、5〜10年以内に相当数の退職が見込まれる。若年層の流入が限定的な中で、この穴を埋めることは容易ではない
加えて、在職年数のデータを見ると、1年未満の警備員が全体の17.6%を占めています(2024年末時点、出典:警察庁「警備業の概況」)。ディップ総合研究所の調査では、離職理由の上位は「体力的な負担が大きい」「仕事内容の割に給与が安い」「キャリアアップが望めない」となっており、採用しても定着しない構造が浮かび上がります。
理由③ 大手警備会社の拡大 ― 採用力の格差が広がっている
業界全体の売上は緩やかに増加していますが、その成長は大手警備会社に集中しています。
売上高上位100社の合計売上高は、2016年の1兆2,498億円から2025年の1兆5,693億円へと3,195億円(25.6%)増加しました。業界全体の売上増加率(2.8%)と比較すると、大手への集中が鮮明です。言い換えれば、中小警備会社の合計売上は実質的に縮小している可能性が高いのです。
100人以上の規模の業者数も増加しています。

(出典:警察庁「警備業の概況」より弊社作成)
大手・中堅企業は、スケールメリットを活かして採用力を強化しています。
- 好待遇の提示:厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」によれば、警備員の年収は約356万円で145職種中128位と低い水準にある。大手は給与水準、福利厚生、研修体制でこの水準を上回る条件を提示できることから、中小企業が同一の土俵で競争することは現実的に困難である。
- 好条件の案件受注:元請けとの交渉力が強く、複数現場の包括契約を武器に利益率の高い案件を確保しやすい
- ブランド力による安定採用:求職者の8割以上が求人応募前に企業HPを確認するとされ(出典:ディップ総合研究所)、大手の知名度や情報発信力が採用に直結している
私がM&Aを支援する中でも、「大手と同じ求人サイトに出しても、応募は大手に流れてしまう」という声を多くいただきます。この採用力の格差は、待遇改善だけでは埋められない構造的な問題です。
この構造変化が中小警備会社の経営に与える影響
結論:人手不足の「実感」は構造的な必然であり、中小警備会社は「採用難」「コスト増」「投資格差」の三重の圧力にさらされている。
ここまで見てきた3つの要因は、それぞれ独立した問題ではなく、互いに連動して中小警備会社の経営を圧迫しています。
業者間の二極化
大手・中堅企業が採用力と売上を伸ばす一方で、新規参入の小規模事業者が増え続けています。2024年末時点で100人未満の事業者が全体の90.2%を占め、5人以下の零細事業者は26.4%にのぼります。84.5%が1営業所のみの運営であり、多くの事業者がエリアも規模も限定的な経営を続けています。
常用化の進行と固定費の増加
見落とされがちな変化として、警備員の「常用化」があります。臨時警備員の比率は2010年の19.2%から2024年の8.8%へ半減以下になりました。これは雇用の安定化という面では望ましい変化ですが、経営面では固定人件費の増加を意味します。繁閑に応じた人員調整が難しくなり、一定の経営規模と収益力がなければ、この固定費を支えきれなくなるリスクがあります。
コスト構造の圧迫
最低賃金の引き上げや社会保険料の負担増が毎年続き、人件費比率の高い警備業の利益を直接圧迫しています。しかし、元請けとの力関係や入札構造の中で、コスト増を警備単価に反映しきれないのが中小企業の実情です。経営者の方からも「人件費は上がるのに、単価交渉がなかなか通らない」という声をよくいただきます。警備員の所定内給与は全業種平均より年間約21万円低い一方で、月間の労働時間は約5時間長いという状況が示されています。待遇改善の原資を確保しにくい構造にあるのです。
テクノロジー投資の格差
大手企業がAIカメラ、遠隔監視システム、警備ロボットなどによる省人化を進める一方、小規模事業者にはその投資余力がありません。機械警備業者数が2014年の662社から2024年の542社へ減少しているのは、この分野での集約化を示しています。テクノロジーの活用は大手と中小の競争力の差をさらに広げる方向に作用しており、この流れは今後も加速するでしょう。
(出典:警察庁「警備業の概況」、令和5年賃金構造基本統計調査)
> 私が現場で感じていること
> 「いま相談に来られる経営者の多くは、こうした課題が『同時に』押し寄せていることに直面しています。採用が難しい、コストは上がる、投資の余裕もない。この三重の圧力を一社の努力だけで解消するのは、率直に言って簡単ではありません。だからこそ、構造を正しく理解したうえで、自社に合った対応策を考えることが大切だと感じています。」
今後の業界再編はどう進むか
結論:小規模事業者の淘汰と大手への集約が進み、業界再編は加速する見通しである。
業界の構造変化を踏まえると、以下の方向で再編が進むことが見込まれます。
小規模事業者の淘汰
東京商工リサーチの調査では、2025年度の警備業の倒産件数は過去20年間で最多ペースで推移しており、その大半が資本金1千万円未満の小規模事業者です(出典:東京商工リサーチ TSRデータインサイト)。需要は堅調であるにもかかわらず、「人を集められない」「コストを吸収できない」「投資で追いつけない」事業者から脱落していく構造が、すでに現実のものとなっています。
大手グループへの集約
大手・中堅企業は人材とエリアの確保を目的に、M&Aによる規模拡大を積極的に進めています。ある地方の警備会社の経営者は、無借金・黒字経営にもかかわらず「今のうちに動かないと手遅れになる」と判断し、上場企業グループへの株式譲渡を選択されました。このように、業績が黒字のうちに「従業員の高齢化と人材不足」を理由にM&Aを決断されるケースが増えています。
M&Aの質の変化
以前は「経営に行き詰まった会社を引き取る」というイメージが強かったM&Aですが、警備業界では「成長のための戦略的な手段」として選択されるケースが増えています。実際の支援でも、南関東の1号・2号警備とビルメンテナンスを手掛ける約100名規模の会社が、コロナ禍後のV字回復のタイミングで、「従業員を守りつつ経営者自身も第二の人生に踏み出す」ためにM&Aを選択されました。業績が好調なうちに動いたことで、条件面でも良い結果につながっています。
会社に体力があるうちに判断することが、従業員や取引先にとっても良い結果につながりやすいというのが私の実感です。
中小警備会社の経営者が取りうる選択肢
結論:自社の状況に合った手段を早めに検討し、選択肢がある段階で情報を集め始めることが重要である。
業界の構造変化を前提にすると、中小警備会社の経営者が検討すべき選択肢は主に3つあります。
選択肢① 自力での規模拡大
- 向いている場合:経営者に体力と意欲があり、投資余力がある。採用パイプラインがある程度構築できている
- メリット:成功すれば独立性を維持したまま採用競争力を上げられる
- リスク:人材確保が難しい環境下で大きな投資と時間が必要。採用コストが回収できない可能性もある
選択肢② M&A(会社の譲渡)
- 向いている場合:グループの力を借りながら会社を発展させたい。従業員の雇用と取引先を守りたい
- メリット:大手グループの資本力・ブランド・ノウハウを活用でき、隊員の待遇改善や採用力の強化が見込める。オーナーの連帯保証解除や創業者利潤の確保も可能
- 留意点:警備業認定は法人単位のため、法人が存続する株式譲渡であれば認定をそのまま維持できる。一方、事業譲渡では許認可の再取得が必要になる場合がある
選択肢③ 計画的な事業承継
- 向いている場合:後継者候補(親族・社内)がおり、育成に十分な時間がある
- メリット:会社の理念や文化を守りやすい
- リスク:後継者の育成に長い時間が必要。後継者が連帯保証を引き受けられないケースもある
選択肢比較表

どの選択肢が最適かは、会社の規模、財務状況、経営者の年齢や意向によって異なります。重要なのは、「まだ大丈夫」と先送りにせず、選択肢が広い段階で情報を集め始めることです。
自社の状況を点検するためのチェックリスト
以下の項目に複数該当する場合は、経営戦略の見直しや専門家への相談を早めに検討する価値があります。

3つ以上該当する場合は、「今すぐ売る」という話ではなく、選択肢を整理するための情報収集を始める段階にあるかもしれません。検討段階で専門家に相談すること自体にリスクはありませんし、情報を持っておくことは経営判断の幅を広げることにつながります。
まとめ
- 警備員数は過去10年で約5万人増加しているが、業者数の増加(+15.7%)、高齢化の進行(70歳以上が20.9%)、大手への売上集中(上位100社で+25.6%)により、中小警備会社の採用環境は構造的に厳しくなっている
- 1社あたりの平均警備員数は減少し、常用化による固定費増加も進んでおり、一定の経営規模がなければ事業を維持しにくい環境が生まれている
- このギャップは一時的なものではなく、人口動態や市場構造に根ざした不可逆的な変化である。経営に余裕があるうちに自社の状況を客観的に見つめ、選択肢を検討することが、従業員と取引先を守ることにつながる
よくある質問
- Q. 警備員の数が増えているのに、なぜ中小企業では採用が難しいのですか?
- 業者数が過去10年で15.7%増加しており、警備員数の増加率(9.2%)を上回っています。1社あたりの平均警備員数は実質的に減少しています。さらに、増加した警備員の多くが70歳以上であるため、実際に稼働できる人員の増加は限定的です。大手企業に採用が集中する構造も加わり、中小企業ほど厳しい環境にあります。
- Q. 中小警備会社にはどのような打ち手がありますか?
- 自力での規模拡大、資本提携・業務提携、M&A、計画的な事業承継の4つが主な選択肢です。自社の規模、財務状況、後継者の有無などを踏まえ、どの選択肢が現実的かを早めに整理しておくことが重要です。
- Q. 業績が黒字でもM&Aを検討すべきですか?
- 黒字のうちに検討を始める方が、条件面でも選択肢の広さでも有利です。実際の支援でも、業績が好調なタイミングで動いた企業の方が、従業員にとっても取引先にとっても良い結果になりやすい傾向があります。「まだ大丈夫」と感じている段階から情報を集めておくことをお勧めします。
- Q. 小規模な警備会社でもM&Aの対象になりますか?
- 対象になります。エリアや人材の確保を目的としたM&Aが増えており、数十名規模の会社にも引き合いがあります。財務面だけでなく「人の価値」が評価されるケースも少なくありません。
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